2012年4月7日土曜日

優先株はベンチャーキャピタルに有利な株式か? : 磯崎哲也の起業案内 : 起業 : ジョブサーチ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


 こんにちは、磯崎哲也です。本日は、「優先株」のお話です。

 米国では、ベンチャーが投資を受ける際に「優先株」が使われることが基本になっています。この米国での投資実務が世界のデファクト・スタンダードになっているので、中国やシンガポールなど、他の世界の各国でのベンチャー投資も、優先株で行われることをよく見聞きします。

 ところが日本を見てみると、ベンチャー投資に優先株が使われることは非常に少なく、ほとんどの投資が普通株式によって行われているんですね。これにはいろいろな要因が考えられるのですが、創業者も投資家も、またベンチャーをサポートする専門家も、優先株がなぜ必要なのか、どういう設計にするとどういう結果になるのかがいまひとつ腑に落ちていないのではないかと思います。

 「優先株」という名前なので、「投資家が一方的に得する内容の株なんだろ?」と思っている起業家の人も多いかも知れませんが、必ずしもそうではありません。(もちろんどちらかに一方的に有利な内容になることも考えられるので、注意してかかる必要はありますが)、もし、優先株が投資家に一方的に有利で創業者に不利なものなのだとしたら、米国をはじめとする世界のベンチャー投資のほとんどが優先株で行われるなんてことにはならないはずですよね?

 では、優先株とはどんなものなのでしょうか?

 優先株(Preferred Stock)は、日本の会社法で「種類株式」と呼ばれているもの(の一部)です。

 配当や議決権等について普通株式とは違った条件が付いているのですが、ベンチャー投資として利用するものとしては、中でも、投資家と創業者の「取り分」を調整する機能が最も重要な条件の一つです

 (具体的には、残余財産分配権や、種類株式1株を何株の普通株式に「転換」するかの調整式などがキモとなります。)


現金でのデポジットの金額かは、銀行のレポートしていますか?

 優先株はなぜ必要なのでしょうか?

 まず、ベンチャーが大成功した場合(例えば上場した場合)を考えてみましょう。この場合、関係者はだいたい全員ハッピーになるわけです。

 例えば、創業者が1株500円で6000株、資本金300万円で設立した会社を考えてみましょう。この会社のビジネスが非常にイケているということになって、ベンチャーキャピタルが1株10万円で3億円(3000株)投資したとします。発行済み株式は9000株になるので、ベンチャーキャピタルはそのうち3分の1を持つことになります。

 もしこの会社が上場して時価総額300億円の会社になったら、創業者の株式の価値は200億円となり、ベンチャーキャピタルも97億円の利益が出ます。(注:IPO時の公募の株式等は除いてシンプルに考えています。)

 このように、「大成功」の場合にはみんながハッピーになるので、出資比率がどうで株式の種類がなんであろうと、あまり問題にならないんですね。

 しかし、「そこそこ」の成功の時には、「取り分」の問題が大きく影響します

 先ほどの例のベンチャーに、大企業から6億円の買収提案があったとしましょう。
もともと創業者300万円とベンチャーキャピタル3億円で、合計3億300万円しか投資してない会社を6億円で買ってくれるわけですから、一見すると成功です。

 しかし、ベンチャーキャピタルが創業者と同じ「普通株式」で投資をしていたら、3分の1しか持っていないので、株式の売却額は2億円にしかなりません。

 あれ!? 会社全体では約3億円トクするはずなのに、ベンチャーキャピタルは逆に1億円の損失が出ちゃいますね?


土地の契約で購入する方法

 会社が6億円で買収されれば3分の2を持っている創業者は4億円を手にするので、この買収話が来たら「売りたい!」と思うかも知れないですよね。普通株式だけで投資契約も結んでいない場合には、創業者は自分だけ売却して4億円を手にするということも可能です。

 しかし、投資契約を締結していた場合はどうでしょう? 投資家側が買収されるかどうかについての拒否権を持っていた場合には、投資家は損をしてまで売却するのはイヤですので、せっかくの買収話を拒否するかも知れません。

 また、ベンチャーの買収では、少数株主が残っていても面倒なので、買う側は株式を100%欲しがる場合がほとんどです。投資契約で拒否権が無くても、ベンチャーキャピタルが、「うちは売らないよ」とそっぽを向いてしまうと、買収の話もまとまらないかも知れません。

 また、このケースでベンチャーキャピタルがあと1株多く投資していたら、3分の1超(33.34%)を持つことになります。買収提案が、現金で株式を買い取るのではなく、相手の会社と合併や株式交換をする場合には、(投資契約ではなく)会社法によってベンチャーキャピタルが拒否権を持つことになります。(つまり、合併や株式交換は、株主総会で3分の2の賛成を得ることが必要ですので、3分の1超を持つベンチャーキャピタルが反対したら可決されません。)

 それ以前に、そもそも、「ベンチャーキャピタルに大損をさせて自分だけが大儲(もう)け」というのは、普通の感覚の創業者なら非常にやりづらいはずです。ベンチャーキャピタルの人が社外取締役に入って、いつも取締役会で顔を合わせているといったことになればなおさらです。

 つまり、普通株式だけで投資をしていて「そこそこの」成功の場合には、こうした「デッドロック」に陥ることがあり得るわけです。


どのように不動産管理の仕事はしない

 優先株を使うと、こうした「そこそこの成功」の場合でも、「取り分」の調整を行うことができるのです。6億円の売却額のうち、ベンチャーキャピタルがまず投資額の3億円を優先的にとって、残りを2:1で分ける条件の優先株だとすると、創業者が2億円、ベンチャーキャピタルが4億円を受け取ることになり、創業者約2億円、ベンチャーキャピタル1億円の利益となります。これなら双方ハッピーですよね。

 昨今、ネットやIT系を中心に非常に起業の機運が盛り上がっていまして、それは大変いいことなのですが、例えば、スマートフォンのアプリとか、ソーシャルゲームなどでは、上場するにはちょっとしんどいが、製品やサービスを会社ごと他社が買収してくれる、といった場合も多くなりそうです。「そこそこの成功」の場合にこそ、いろいろややこしい問題が出て来うるので、最初によく考えないで後で泣きを見るんじゃないかとちょっと心配です。

 平成23年11月28日付で経済産業省の「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会」から出た報告書に、「出所:NVCA Yearbook2010、財団法人ベンチャーエンタープライズセンター作成」として、「米国におけるベンチャー企業 Exit 件数の推移」という非常にわかりやすい図が載っていまして、米国では、この30年で、投資家の株式の売却(exit)がIPO(上場)からM&Aに大きくシフトして来たことがわかります。


 日本においては、創業当初の企業にも投資が行われるような本格的なベンチャー投資は、まだ10年ちょっとの歴史しかありませんが、日本も上記の米国の図のように上場からM&Aに大きくシフトしていく可能性は高いと思われます。今までは選手も監督も「ホームラン」を狙ってフルスイングすることしか考えていなかったのが、今後は「一塁打、二塁打」も考えた野球をするようになるという感じでしょうか。この場合、最初から「取り分」の調整をきちんと約束しておかないと、前述の例のような「デッドロック」状態になって、いい買収提案を泣く泣く見送るといったことも出てきそうです。特にネット系IT系などでは起業のハードルが大きく下がっているだけに、今後の上場「だけ」を目指すのかどうかといったexit戦略を含め、 こうした資本政策を、最初から、よーく考えた方がいいと思います。

 今週の「週刊isologue」では、優先株についてより詳しい解説を前述の経済産業省の研究会の報告書をベースに行っていますので、ご興味がある方はご覧いただければ幸いです。

(ではまた。)

磯崎哲也(いそざき・てつや)
 公認会計士・税理士、システム監査技術者。カブドットコム証券株式会社 社外取締役、株式会社ミクシィ 社外監査役、中央大学法科大学院 兼任講師等を歴任。著書「起業のファイナンス」、ブログ及びメルマガ「isologue( http://tez.com/blog/ )」を執筆している。

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(2011年12月14日  読売新聞)



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